🚩5/22-5/27 読書期間
『未来』
湊かなえさん
いやミスとも言われる湊さんですが、
私はそんな湊さんの作品が大好きです。
今回の作品は卒アルを彷彿させ、思わず表紙買いといった所でしょうか。
湊さんは『豆の上で眠る』という作品を読んで衝撃を受け嵌ってしまいました。
今回の作品はどちらかというと前向きな作品かもしれません。
ですが、相変わらず後味は悪いです笑
主人公章子は未来30歳の自分から一通の手紙が届きます。
未来の自分から届いた手紙、イタズラなのではないか、と疑いを抱きますが自分の秘密を知っており、ドリームランド30周年記念の栞も送られてきていました。
母親は文乃、子は章子2人合わせて文章という単語になるのだと、父親が名付けたそうです。良い名前ですね。
父は小説を書くのが好きでした。
ですが、父親は早くに病気で亡くなってしまいます。
母親の性格は難ありで、小説では人形と人と例えてますが、日常のことはほとんど父親がこなしていました。父親の死後、章子は父親のありがたみを知ります。
ところがある日章子は父と母の知られず過去を知ってしまうのでした。
母親は犯罪者なのか…?
犯罪者だとしたら父親は何故仕事を放棄してまで母親を守る為に家をでたのか…?です。
30年後から届いた手紙を貰った人はもう一人いました。亜里沙です。
亜里沙は弟を失いました。
弟の死因は自殺でした。
亜里沙の母親も病死で他界します。
父親は暴力を振るう人で、母親の死後は弟に手を出していました。
病室で家族で「ハイテンション!」と言いながらシャインマスカットを食べるシーンがあります。この時母親は病気でかなり弱っていました。父親は面会に来る前に弟と亜里沙に「母親の前では悲しい顔をするな」と言い聞かせていました。
弟が自殺する前にも同じシーンがありました。
歳の数だけシャインマスカットを食べようと亜里沙が提案するのですが、そこで二人は母親と食べたシャインマスカットの味を思い出すのです。
苦しい生活を送っていた二人でしたが久々笑顔が見られます。このシーンには思わず涙してしまいます。
学校では章子、亜里沙、共に過酷な生活を強いられた同士気があったのか二人は友達になります。
最終章では二人が未来にどう向かっていくのか気になっていく所です。
章子→亜里沙→章子亜里沙の担任の先生→章子の父親の過去→章子と亜里沙
とストーリーは展開していきます。
何故担任の先生が?と思いましたが、これにもちゃんとした理由があるのです。
途中で辞めてしまった先生なのですがしっかりと先生以上の役割を果たしていたことが分かりました。
*印象に残った言葉*
・言葉には人をなぐさめる力がある。心を強くする力がある。勇気を与える力がある。いやし、励まし、愛を伝えることも出来る。だけど口から出た言葉は目に見えない。すぐに消えてしまう。耳の奥に、頭のしんに、焼きつけておきたい言葉でさえも、時がすぎれば曖昧なすがたに変わってしまう。だからこそ人は大切なことは書いて残す、言葉を形あるものにするために永遠のものにするために、それが「文章」です。〜作中より〜
・だれと出会うために、何をするために、などと悩んだり色々な方法を試しながら人生は自分自身で切り開いていくものです。なのに先の事が分かってしまったら、誰かに決められた人生を歩んでいるだけなのだと思い込んでしまったら努力をしない人間になってしまうかもしれません。もしくはわざと反発しようとするかもしれません。未来など知らない方がいいのです。〜作中より〜
・人のこころは目に見えないけれどとてもやわらかいものだとパパは思う。だから美味しいものを食べたり、綺麗な星空を見たりといった日常生活のささやかな出来事も受け止めて、包みこみ、幸せを感じることが出来る。それとは逆にやわらかいから傷つきやすくもある。だけど傷ついた心は幸せな事で修理することが出来る〜作中より〜
・本を読むこと、文章を書くことは、決して今のさびしさを紛らわすための行いだけではなく、あなたを未来のあなた、つまり私に導いてくれる大切な役割を果たすものになるはずです。〜作中より〜
・一人で抱えちゃいけない。分担すればいい自分にとっては重い荷物でも、当事者以外にとってはそれ程重くないかもしれないのだから、分ける相手がいるのなら互いの荷物を交換し合ってもいい〜作中より〜
・世の中には正論があふれてるのに、イジメにしろ貧困問題にしろ、何十年も前から続く問題が解決されないのは、本音を語らない人が多いからではないか。問題を解決しようという気はなく、自分に流れてくる波を堰止めるために都合の良い言葉で堤防をつくる。もしくはその他大勢に流れようとする。幸せかと訊かれれば、さほど大きな悩みを抱えていないのに不幸だと答えておく。息苦しい世の中だと嘆いてみせる。生きづらいと不平をもらす。そうすることにより、本当に問題を抱えている人たちが埋もれてしまうことなど気付こうともしないで。
〜作中より〜
湊さんの「未来」には前向きになれるような言葉も沢山詰まっていました。
亜里沙、章子二人で「ハイテンション」と叫ぶシーンがあります。このハイテンションには二人の抱えた問題はまだ解決には至らないけれど、これから起こる未来に向かって逃げずに進んでいこう、その先には笑顔が待っているからという私なりに解釈をしました。
豆の上で眠ると同様に良かった作品でした。
🚩5/17-5/21 読書期間
『森に眠る魚』
角田光代さん
角田さんの作品は人間関係にうんざりした時に読みたくなります。
この作品は1999年に起きた幼児殺人事件をモチーフにしているそうです。
主人公は5人の母親達。
所謂ママ友ってやつです。
昔何かのドラマで見たのと似ていました。
受験絡みになると豹変する母親と、その圧に耐えられずに体調を崩す子供。
受験となるとママ友だった筈がいつの間にか、敵対視してしまうのですね。
読んだ後解説を読み気づいたのですが、母親の年齢は一切書かれていないことが分かりました。
母親達もそれぞれの価値観があり皆同じではないということ。
猜疑、不安、怒り、嫉妬、嘘、が上手く描かれています。
考えすぎなのではないのか?というくらい人間の暗い部分を深く掘り下げていっています。
ママ友ってこんなに付き合いが難しいのかと思ってしまう程でした。
自分は受験勉強というものとは無縁だったので、小さい頃から子供に受験のことを考える親もいることに驚きを感じました。
小さい頃から勉強して、将来が幸せになるかというわけでもないと思いますが、だからといって全く勉強しないで大人になった人が裕福な生活を送っているかと聞かれればそうではないかもしれません。
・相手が自分を否定しないとわかってる時だけ人はなんでも言えるのだ。〜作中より〜
読む人によって思うことは様々な気もしますが、、。
人間関係について色々考えさせられました。
平凡な日常生活を送る中で暗い部分はあまり口にしないですが、角田さんはその暗い部分を上手くサラッと書いていて共感出来るのと同時に、自分のストレスなんてちっぽけなんだと考えさせられます。
・世界が終わるようなショックを味わったとしても世界は終わらないのだ。残酷な程正確に日々はまわる。〜作中より〜
他人に流されず人は人自分は自分と割り切ることを大切にしていきたいと思いました。
🚩5/10-5/16 読書期間
『手紙』
東野圭吾さん
もし自分が強盗殺人の家族であったら?
兄の剛史は弟の直貴を大学にいかせたかった。
しかし、唯一シングルマザーで働いていた母親を失い、頼りは兄しかいなかった。
兄はバイトをかさねていたが怪我をした為、弟の大学のお金をつくることが出来なかった。
そこで、一人暮らしの老人を狙い強盗を働くが老人に見つかってしまい殺してしまうのだ。
弟思いの兄といっても、ここまですることかと。
被害にあった家族の苦しみ。
世間から殺人犯の弟というレッテルを貼られ、世間から冷たい目でみられる弟。
仕事、恋愛、趣味、人間関係、などあらゆる場面で苦しみ生きていかなければならない。
一言で言うと…
重い。
服役中の兄の手紙、読んでるうちに怒りが湧いてくる。
〜作中より〜
人には繋がりがある。それは愛だったり、友情だったりするわけだ。それを無断で断ち切るなど誰もしてはならない。だから殺人は絶対にしてはならないのだ。そういう意味では自殺もまた悪なんだ。
自殺は自分を殺すことなのだ。たとえそれが自分が良いと思っても、周りのものもそれを望んでいるとは限らない。
君のお兄さんは自殺したようなものだよ。
社会的な死を選んだわけだ。しかしそれによって残された君がどんなに苦しむのかを考えなかった。衝動的では済まされない。君が今受けてる苦難もひっくるめて君のお兄さんが犯した罪の刑なのだ。
差別や偏見のない世界。そんなものは想像の産物でしかない。人間というのはそういうものっつき合っていかなきゃならない生き物なのだ。
終
もし罪を犯した人が身内にいたら、、
そんなことは自分には関係ないことだと人は考えると思います。
しかし東野さんの手紙を読み他人事とは考えられなくなり、弟の直貴に感情移入してしまう程でした。
犯罪による影響は広範囲に及ぶということ。
どこか、悲しく重いテーマでしたが、手紙を受け取った被害者や弟の気持ちを考えると…密かに読者の胸を打つ作品でした。
🚩5/7-5/9 読書期間
『スマイルメイカー』
横関大さん
横関さんの作品は『沈黙のエール』に引き続き2作品になります。
今回も激しく感情を揺さぶられました。
舞台はニューヨークです。
私はずっと日本が舞台になっていると勘違いしていました。
タイムズスクエアという場所がなんと終盤で出てきてあれ…と思い、イエロcab、タイムズスクエア!ニューヨークなのか、、ということが明らかになりました。
主人公はタクシー運転手の五味さん、
彼は素晴らしい心の持ち主で、乗せた人を笑顔にするスマイルタクシードライバーなのでした。
彼のタクシードライバーの仲間に景子さん、袴田さんという2人も登場します。
ある時、五味さんは13歳の男の子を乗せるのでした。
しかしその男の子は厄介なお客さんさんで、
まさかの強盗犯だったのです…。
しかもその男の子有名な弁護士の息子さんで、家出をしてきたというのです。
五味さんは頭を悩ませます。
そして男の子に振り回されます。
景子は乗客に警察から婦女暴行で保釈されたばかりの男性弁護士、袴田は急ぎの乗客女性弁護士のを乗せます。
実はこの乗客たちも訳ありです。
その訳ありの乗客たちを笑顔にする為にスマイルタクシードライバー五味が物語をあらゆる方向に進めていくのです。
タクシーって中々使う機会がないですが、ここまで気を配れるドライバーさんは居ないと思います。
最近はカーナビも普及し、もしかすると、今後はAIが発達し、人が運転しない時代来るのかもしれません。
そんな中で五味さんは道は機械で教えられるのではなく、自分の五感で覚えるものだと言っていました。長年の経験もあり、網目のように張り巡らされた一本一本の道筋が頭に入っているって凄いことですよね。
この作品を読んで初めて知ったのですが、タクシーの起源は馬車だったんだそうです。
馬車は昔移動手段として利用され、都市機能が発達し始めると、荷物や人を運ぶようになりそれから営利目的として乗った人からお金をとるようになったみたいです。
日本では様々な理由で馬車は浸透しなかったみたいですが…。
こういう豆知識も勉強になります。
五味さんが居酒屋に行くシーンがあるのですが、そこでのアルバイトのトムとの会話が面白くて思わずクスッと笑ってしまいました。
トムは日本語があまりにも下手なのですが、
諺だけは得意なようで、その諺が印象に残ったのであげてみます。
→幸せや災いというのは予想ができないものだ。幸せだと思っていたものが不幸の原因になったり禍の種だと思っていたのが
幸運を呼び込むことがあるということ。
待てば海路の日和あり
→今は思うようにいかなくても、じっと待てばそのうちにチャンスがめぐってくる。だから辛抱強く待てということ。
果報は寝て待て
→幸運は人力ではどうすることもできないから、あせらないで静かに時機(時期と機会)が来るのを待て。次に備えておきなさいということ。
次に乗ってくるお客さんはどんなお客さんだろう?次に向かう場所はどんな場所だろう?そんな緊張感を持ちながら街をひた走るのがタクシードライバーの仕事だという一説に思わず憧れを抱いてしまいました。
簡単にはできない仕事だと思いました。
五味さんは自分の笑顔をつくることが出来ません、その理由に涙涙です。
最後まで五味さんはお客さんを笑顔で送り出すことが出来るのか、そして五味さん自身は笑顔を取り戻せることが出来るのでしょうか。
ほっこり、涙、笑ありで終盤にはまんまと騙されます。
今回も横関さんにやられた感ありの作品でした。
🚩5/5-5/6 読書期間
『青空のむこう』
アレックス・シアラーさん
“死後の世界”とは…?
そんな些細な疑問を誰もが抱いたことがあるのではないかと思います。
その些細な疑問を交通事故で亡くなった少年ハリーがその答えまで読者を導いてくれます。
“死んだら楽になれる”と考える人も居て、自ら命を失う人も少なくありません。
この作品では、生きてる間の世界を生者の国、
死後の世界を死者の国、死者がその後に向かう場所を彼方の青い世界と表現しています。
普通なら死者は彼方の青い世界に向かっていくのが一般的なのですが、主人公のハリーはやりのこしたことがあり、生者の国へ戻ってしまいます。勿論幽霊として。
ハリーは交通事故に遭う前にお姉さんのエギーと喧嘩をしたまま亡くなってしまったのです。
当たり前ですが、幽霊なので言葉も通じないし、相手に姿を見せることも出来ません。
エギーに何としても謝る為にハリーはあれこれと試みます。
アーサーという死後の国で出逢った少年がいます。この少年は母親を捜していますが中々見つかりません。彼もまた彼方の青い世界に行けない1人でもありました。
未練を残した幽霊たちが何人も出てきます。
中には悪い幽霊もいたり…。
映画館が涼しいのは多くの幽霊たちが居座っているからという一説が出てくるのですが、これには思わずゾッとしてしまいました。笑
自分が居なくなっても世界は動き続けます。
死んだら元の世界には戻れません。
待っているのは孤独だけです。
もし自ら命を絶とうとしている人がいるなら迷わずこの作品を読んで欲しいです。
汝の怒りの上に日を沈ませてはならない。
作中より〜
つまり、誰かに腹を立てたり恨みをもったまま眠りについてはいけないという意味です。
相手が愛人であれば尚更で、やりのこしたことに思いっきり取り憑かれてしまうからです。
一日を穏やかに終わらせて眠りにつくのが一番ですね。
*印象に残った言葉*
・僕はそんなに強い人間じゃないけど、そうならなくちゃと思うと強くなれる。ときには強くなることも必要だ。たとえ少し傷ついても後でもっと傷つかない為にそうならなくちゃいけない。
・目は多くを語る
・物事ってそんなものだと思う。夢が叶うときにはもう自分の夢は別の所にある。
・おかしなことだけど、しつこくまとわりつかれるとその相手が早くいなくなってくれればって思うのに、いざいなくなると、嬉しいどころか淋しくてたまらなくなる。
→これには凄く共感出来るものがありました。
彼方の青い世界に行った後には、前半の頁に出て来た言葉で言うとリサイクルということになります。
最終章の彼方の青い世界にハリーが向かうシーンに涙を堪えずにはいられませんでした。
今年読んだ中で一番感動した作品でした。
🚩5/2-5/4 読書期間
『沈黙のエール』
横関大さん
初読み作家さんです。
“号泣ミステリーの大本命”という帯に惹かれて即購入してしまいました。
朝宮里菜は恵比寿の有名洋菓子店に勤めていました。
彼女が洋菓子店に勤務にするまでに、姉の日菜の存在が大きく影響したようです。
日菜は19という若い歳で病魔に襲われこの世を去ってしまいます。母も体が弱く胃癌でこの世を去っています。姉の体の弱さは母譲りだったみたいです。日菜は父の朝宮洋菓子店を継ぎたいという強い意志がありました。
朝宮洋菓子店は昔さながらのお店で、父は長男の克己の野球試合や、近所の人などにシュークリームを配っていました。
そのシュークリームを食べた誰もが頰をほころばせる程のものだったらしいです。
ある日突然里菜の元に陽介という少年が訪ねてきます。それに続き自宅である朝宮洋菓子店が放火に遭い、父と昔野球の監督をしていた矢野が何者かによって殺害されます。
父が殺害されてすぐに兄の克己が自宅を取り壊し何かを立て直します。
兄は野球一筋の人間で野球推薦での進学も決まっていましたが、暴力沙汰を犯し推薦が取り消しになってからは放蕩生活を送っていました。
そんな兄が殺人容疑で任意同行を求められますが後半からストーリーは一転します。
事件解決の鍵は里菜を訪ねてきた陽介君にありました。
率直な感想ですが、殺人犯の心理は本当に狂ってると思いました。自分勝手過ぎて周りが見えてない…と。
犯人が明らかになるにつれ、家族の秘密も明らかになっていきます。
里菜にだけ秘密にされていた真実とは⁉︎
秘密にしていた事の裏には家族の優しさが隠されていました。
夢を持つ子の為に男一筋で三人を育ててきた父の思い、これこそが大号泣ミステリーの大本命なのだと思いました。
*印象に残った言葉*
・悪いことばかりは続かない。
・チャンスというものは掴める時に掴んでおかないと、五年後か十年後か分からないけど必ず後悔する時が来ると。
・人間がとる行動には必ず理由があるのだ。
因みに私はシュークリームの皮が苦手です 泣
大号泣とまではいきませんでしたが、がっつりミステリーと思いきや、恋愛要素も若干ありで、切ない要素、ほっこり要素、横関さんはもしかして読者の色々な感情を揺さぶるのが上手いのでは?と感じる一冊でした。
この機会に他の作品も読んでみたいです。
🚩4/30-5/1 読書期間
『天上の葦 下巻』
太田愛さん
上巻に続いての下巻です。
曳舟島に真相を探りに行く三人。
正光に届いた一枚の葉書、白狐さんを頼りに、葉書の送り主を探ります。
島の人の証言を聞いているうちに、正光が倒れる前後に島で何か起きていたことが分かってきます。
島の人々の他愛もない会話から皆戦争体験の過去を持っていることが分かります。
ですが、その過去は苦しく、思い出したくないような過去であり、自ら語ろとするのを躊躇う人もいました。
三人は島の人々の噂、などから正光と繋がりがありそうな人は誰なのか、更に深く探っていきます。
自分は戦争時代を本やテレビで見たくらいにしか知識がありませんでしたが、、
多くの人が犠牲になったのは、報道の検閲があったことにも大きく驚かされました。
常に小さな火から始まるのです。そして闘えるのは火が小さい内だけなのです。やがて点として置かれた火が繋がり、風を起こり、火が風を煽り、大火となればもはやなすすべはない。もう誰にもどうすることはできないのです。
自分は気づいた時は大火の中にいるのだ。
〜作中より
あの時代、新聞が主な情報源となっていたそうですが、検閲により大きな事件も小さな事件で対処され、偽りの情報が流れていたそうです。
焼夷弾は手で消せる、大したことない。
これが大きな犠牲者を招いたのです。
この事実を知った時とてつもなく胸苦しいものを感じました。
正光が残した、孔雀の羽の栞、金庫から消えた200万、失踪した、山波全てが繋がりが分かった時、正光の最期の思いに何か複雑なものを感じました。
そして、「犯罪者」「幻夏」でちらっとは登場していたのでしたが、鑓水の過去がこの作品で分かります。
鑓水は小さい頃から一目を気にして生きていた人間だったなんて…。
花柄シャツでポジティブで陽気なイメージだったのでこれにはビックリでしたが、この理由もしっかりとこの作品と繋がる部分であると思います。
*印象に残った言葉*
・生きていると、世間の尺度と自分の尺度がどうしても合わない時がある。そういう時は自分で決断して行動するしかないのだ。
→島の人の決断力は凄いなと思いました。
てっきり自分は山波が島で捉えられた人だと思っていたのですが、、。
最後まで島の人の優しさと決断力で三人も救われた、逃げ切れた?笑のではと感じました。
・今目の前にいる人間だけが自分を破滅から救える。そう思わせれば相手はこちらの望むことを懸命に忖度し、気に入られることを進んで喋るようになる。それがどんな結果を招く考える余裕もなく。
・組織から逃げ出す人間、脆弱で何より自分自身を大事にする人間、そういう腐った人間は同じように腐った人間とつるむものだ。
→、、!
まるで空気が薄くなったように自由がなくなっていったあの時代。
着たいものを着る自由、読みたいものを読む自由、食べたいものを食べる自由。
思ったことを口にしただけで犯罪者にされる自由。
自分の生活までを犠牲にし、全てを国に捧げる。男の人は命を捧げてまで国の為に戦う。
国の為に戦い、死ぬことは立派な死に方だと考
えられていた時代。
どこか他人事のようにはなってしまいますが…そんな中で生きていた人がいなかったら今の自分達はいないと思いますし、そのような時代があったことを決して忘れてはならず、頭に入れとかなければいけないと思いました。
あの空にあったものを2度と奪われてはならない、今闘わなければならない。
正光の思いが読者にも伝わり、不覚にも涙してしまいそうになりました。
これは次世代にも読み継がれていってほしいなと思う作品でした。