🚩4/30-5/1 読書期間
『天上の葦 下巻』
太田愛さん
上巻に続いての下巻です。
曳舟島に真相を探りに行く三人。
正光に届いた一枚の葉書、白狐さんを頼りに、葉書の送り主を探ります。
島の人の証言を聞いているうちに、正光が倒れる前後に島で何か起きていたことが分かってきます。
島の人々の他愛もない会話から皆戦争体験の過去を持っていることが分かります。
ですが、その過去は苦しく、思い出したくないような過去であり、自ら語ろとするのを躊躇う人もいました。
三人は島の人々の噂、などから正光と繋がりがありそうな人は誰なのか、更に深く探っていきます。
自分は戦争時代を本やテレビで見たくらいにしか知識がありませんでしたが、、
多くの人が犠牲になったのは、報道の検閲があったことにも大きく驚かされました。
常に小さな火から始まるのです。そして闘えるのは火が小さい内だけなのです。やがて点として置かれた火が繋がり、風を起こり、火が風を煽り、大火となればもはやなすすべはない。もう誰にもどうすることはできないのです。
自分は気づいた時は大火の中にいるのだ。
〜作中より
あの時代、新聞が主な情報源となっていたそうですが、検閲により大きな事件も小さな事件で対処され、偽りの情報が流れていたそうです。
焼夷弾は手で消せる、大したことない。
これが大きな犠牲者を招いたのです。
この事実を知った時とてつもなく胸苦しいものを感じました。
正光が残した、孔雀の羽の栞、金庫から消えた200万、失踪した、山波全てが繋がりが分かった時、正光の最期の思いに何か複雑なものを感じました。
そして、「犯罪者」「幻夏」でちらっとは登場していたのでしたが、鑓水の過去がこの作品で分かります。
鑓水は小さい頃から一目を気にして生きていた人間だったなんて…。
花柄シャツでポジティブで陽気なイメージだったのでこれにはビックリでしたが、この理由もしっかりとこの作品と繋がる部分であると思います。
*印象に残った言葉*
・生きていると、世間の尺度と自分の尺度がどうしても合わない時がある。そういう時は自分で決断して行動するしかないのだ。
→島の人の決断力は凄いなと思いました。
てっきり自分は山波が島で捉えられた人だと思っていたのですが、、。
最後まで島の人の優しさと決断力で三人も救われた、逃げ切れた?笑のではと感じました。
・今目の前にいる人間だけが自分を破滅から救える。そう思わせれば相手はこちらの望むことを懸命に忖度し、気に入られることを進んで喋るようになる。それがどんな結果を招く考える余裕もなく。
・組織から逃げ出す人間、脆弱で何より自分自身を大事にする人間、そういう腐った人間は同じように腐った人間とつるむものだ。
→、、!
まるで空気が薄くなったように自由がなくなっていったあの時代。
着たいものを着る自由、読みたいものを読む自由、食べたいものを食べる自由。
思ったことを口にしただけで犯罪者にされる自由。
自分の生活までを犠牲にし、全てを国に捧げる。男の人は命を捧げてまで国の為に戦う。
国の為に戦い、死ぬことは立派な死に方だと考
えられていた時代。
どこか他人事のようにはなってしまいますが…そんな中で生きていた人がいなかったら今の自分達はいないと思いますし、そのような時代があったことを決して忘れてはならず、頭に入れとかなければいけないと思いました。
あの空にあったものを2度と奪われてはならない、今闘わなければならない。
正光の思いが読者にも伝わり、不覚にも涙してしまいそうになりました。
これは次世代にも読み継がれていってほしいなと思う作品でした。